麻酔科学研究日次分析
多施設第3相RCT(PRIME-AIR)は、開腹手術における周術期肺拡張バンドルを検証し、高い遵守率とより高い術中PEEPの設定を達成しました。基礎・トランスレーショナル研究では、微小管作動薬がイソフルラン感受性と覚醒時間を双方向に変化させることが示され、成人外科患者における静注リドカインと代謝物の集団薬物動態モデルは、除脂肪体重に基づく投与で目標濃度へ迅速に到達できる用量設計を提案しました。
概要
多施設第3相RCT(PRIME-AIR)は、開腹手術における周術期肺拡張バンドルを検証し、高い遵守率とより高い術中PEEPの設定を達成しました。基礎・トランスレーショナル研究では、微小管作動薬がイソフルラン感受性と覚醒時間を双方向に変化させることが示され、成人外科患者における静注リドカインと代謝物の集団薬物動態モデルは、除脂肪体重に基づく投与で目標濃度へ迅速に到達できる用量設計を提案しました。
研究テーマ
- 周術期肺保護と術後肺合併症
- 精密麻酔投与設計と薬物動態/薬力学モデル化
- 薬剤―微小管相互作用が麻酔感受性に及ぼす影響
選定論文
1. 米国における開腹手術の周術期肺拡張と肺転帰(PRIME-AIR):多施設ランダム化対照第3相試験
中等度〜高リスクの開腹手術患者を対象とした多施設第3相RCTでは、周術期肺拡張バンドルの遵守率は高く(72–98%)、介入群は通常ケアに比べて術中の平均PEEPが高かった。修正ITT解析は751例で実施された。
重要性: PPC低減を目的とした大規模かつ厳密なNIH資金のRCTであり、開腹手術の周術期換気バンドルと標準実践に影響を与える可能性が高い。
臨床的意義: 個別化された術中肺拡張戦略の体系的導入の妥当性を支持する。最終的な転帰の詳細を待ちつつ、ハイリスク開腹手術で高い遵守を可能にするプロトコルやPEEP調整の取り組みを参考にできる。
主要な発見
- 多施設第3相RCTで794例を登録し、修正ITTは751例(介入379、対照372)。
- バンドル各要素の遵守率は高かった(72〜98%)。
- 介入群は通常ケアより高い術中平均PEEP(報告値7.5 cmH2O)を受けた。
- 適格基準はARISCAT≥26、BMI<35 kg/m²、2時間以上の待機的開腹手術。
方法論的強み
- 多施設ランダム化第3相デザイン(NIH資金)と修正ITT解析。
- 高いプロトコル遵守と標準化された術中管理バンドル。
限界
- 提示された抄録ではPPC転帰の効果量が明示されていない。
- BMI<35 kg/m²かつ2時間以上の開腹手術に限定され、術中担当者の盲検化が困難で外的妥当性に制約がある。
今後の研究への示唆: PPC重症度・発生率の詳細、サブグループ効果(ARISCAT層など)、異なるBMIや腹腔鏡手術への実装可能性の検証が求められる。
2. 成人外科患者における静注リドカインとその代謝物の集団薬物動態
成人外科患者98例(1,520測定)で、リドカインは3コンパートメント、MEGX/GXは2コンパートメントで最適適合した。クリアランスは45.9 L/hで術後に60%低下し、シミュレーションは除脂肪体重に基づく投与で1.5 mg/Lへの迅速到達を支持した。
重要性: 親薬物―代謝物の統合PKモデルと除脂肪体重に基づく具体的な投与指針を提示し、目標濃度志向の安全な周術期リドカイン使用を後押しする。
臨床的意義: 術後のクリアランス低下や体液変動・体組成を考慮しつつ、約1.5 mg/Lの迅速到達を目指す除脂肪体重ベースのボーラス・持続投与レジメン採用を検討できる。
主要な発見
- リドカインは3コンパートメント、MEGX/GXは各2コンパートメントで適合。
- リドカインの典型的クリアランスは45.9 L/hで術後に60%低下、中心室容積は25.2 L。
- 室間クリアランスは142 L/hと5.81 L/h、容積は44.4 Lと29.3 Lで、末梢1室は術中輸液で拡大。
- FFMベース投与(2.5 mg/kgを30分、続いて2 mg/kgを1時間、その後1.5 mg/kg/h)が1.5 mg/Lに迅速到達。
方法論的強み
- 1,520時点の豊富な採血に基づく親薬物・代謝物の統合モデリング。
- 体重と除脂肪体重のアロメトリックスケーリングを実施し、臨床的投与レジメンをシミュレーション。
限界
- 対象術式が腎提供と胆嚢摘出に限定され、外部検証は未了。
- 至適目標濃度を規定する薬力学指標や臨床転帰の同時評価がない。
今後の研究への示唆: 多様な術式や肝腎機能表現型での外部検証を行い、PK-PD統合により目標濃度と安全域を精緻化する。
3. 微小管調節薬はマウスにおけるイソフルラン感受性を変化させる
微小管作動薬の長期曝露はイソフルラン感受性と時間特性を変化させ、エポチロンDとビンブラスチンは感受性を上げ(EC50左方移動)、モルヒネとパクリタキセルは低下させた(後者は軽度)。ビンブラスチンは導入を短縮し、モルヒネは遅延させ、両者とも覚醒を短縮した。
重要性: 微小管調節と麻酔反応性の機序的関連を示し、微小管標的化学療法や長期オピオイド使用患者の麻酔管理に実務的示唆を与える。
臨床的意義: 微小管薬やオピオイド長期使用患者では、実質的なMACや導入・覚醒プロファイルの変化を考慮し、イソフルランの滴定と麻酔深度監視を慎重に行う必要がある。
主要な発見
- エポチロンDとビンブラスチンはイソフルラン感受性を上昇(EC50 0.75, 0.74;生食 0.97–0.98)。
- モルヒネは感受性を低下(EC50 1.16;生食 0.97–0.98)、パクリタキセルは軽度の右方移動(EC50 1.05)。
- 1.2%イソフルランで、モルヒネは導入潜時を延長(275±50秒)、ビンブラスチンは短縮(96.5±26秒);生食は211±39秒。
- 覚醒潜時はモルヒネ(58±20秒)とビンブラスチン(98±43秒)で生食(176±50秒)より短縮。
方法論的強み
- 慢性薬剤曝露の制御とLORR用量反応によるEC50の定量評価。
- 固定濃度イソフルラン下で導入・覚醒潜時の双方を評価。
限界
- 雄CD1マウスという動物モデルでありヒトや女性への一般化に限界がある。
- LORRは意識の代替指標で麻酔の全側面を反映しない可能性があり、機序的実験は未実施。
今後の研究への示唆: 化学療法・慢性オピオイド集団での臨床MAC評価によるヒトへの翻訳、微小管指標や神経回路機構の解明が求められる。