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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

NeuPSIGの最新メタアナリシスが神経障害性疼痛治療の第1・第2・第3選択を有効性と有害事象のバランスで再定義した。周術期のメンタルヘルスの重要性も示され、術前心理的苦痛が30日合併症と1年死亡率を予測した。またSEER解析により、がん患者における脳卒中死亡リスクが明確化され、周術期リスク層別化に資する知見が得られた。

概要

NeuPSIGの最新メタアナリシスが神経障害性疼痛治療の第1・第2・第3選択を有効性と有害事象のバランスで再定義した。周術期のメンタルヘルスの重要性も示され、術前心理的苦痛が30日合併症と1年死亡率を予測した。またSEER解析により、がん患者における脳卒中死亡リスクが明確化され、周術期リスク層別化に資する知見が得られた。

研究テーマ

  • エビデンスに基づく神経障害性疼痛治療
  • 周術期リスク予測とメンタルヘルス
  • 周術期に関連する腫瘍循環器アウトカム

選定論文

1. 神経障害性疼痛に対する薬物療法と非侵襲的神経調節:システマティックレビューとメタアナリシス

81Level IメタアナリシスThe Lancet. Neurology · 2025PMID: 40252663

313試験(成人48,789例)を統合した結果、三環系抗うつ薬、α2δリガンド、SNRIは第一選択(NNT約4.6~8.9)として妥当で、有害事象は許容範囲であった。一方、オピオイド、ボツリヌス毒素A、rTMSは有効性の確実性が相対的に低く第三選択に位置づけられた。カプサイシン8%パッチや局所療法は第二選択として弱い推奨となった。事前登録・RoB2・GRADEを用いた更新ガイダンスである。

重要性: 本メタアナリシスは包括的かつ事前登録され、主要治療の利益・害のバランスを明確化し、神経障害性疼痛の意思決定に直結する。麻酔科主導のペインクリニックを含む実臨床に影響を与える可能性が高い。

臨床的意義: 第一選択は三環系抗うつ薬、α2δリガンド、SNRIとし、難治例にオピオイド、ボツリヌス毒素A、rTMSを検討する。カプサイシン8%パッチ等の局所療法は第二選択の補助として用いる。忍容性、併存症、アクセス、患者選好に応じて最適化する。

主要な発見

  • 313件の二重盲検プラセボ対照RCT(成人48,789例)を統合。PROSPERO登録、GRADE/ROB2で評価。
  • 第一選択の有効性:三環系抗うつ薬(NNT 4.6;NNH 17.1)、α2δリガンド(NNT 8.9;NNH 26.2)、SNRI(NNT 7.4;NNH 13.9)。
  • 第二・第三選択:カプサイシン8%パッチ(NNT 13.2;NNHは非常に大)、ボツリヌス毒素A(NNT 2.7;確実性に限界)、rTMS(NNT 4.2;確実性低)、オピオイド(NNT 5.9;NNH 15.4;確実性低)。

方法論的強み

  • PROSPEROへの事前登録、明確な選択基準、二重抽出
  • Cochrane RoB2とGRADEを用い、リスク差モデルでNNT/NNHを算出

限界

  • 病因・介入・転帰定義の異質性が大きく、いくつかの治療では効果量が小さい
  • 多くの試験が短期間(3週以上)であり、神経調節・外用療法の一部で不確実性が残る

今後の研究への示唆: 長期の直接比較RCT、実臨床でのプラグマティック試験、表現型やバイオマーカーによる患者層別化に基づく個別化治療の検証が必要。

2. 術前の心理的苦痛は非心臓手術後1年以内の死亡と関連する

65.5Level IIIコホート研究General hospital psychiatry · 2025PMID: 40252258

VISIONコホートのサブ解析(K6完了n=938)で、術前の心理的苦痛は、非心臓手術後の30日合併症(AOR 1.12)と1年死亡(AOR 1.09)を独立して予測した。感度分析では、不安ではなく抑うつ症状が主たる要因であることが示唆された。

重要性: 日常的に測定可能な術前メンタルヘルスをハードアウトカムに結びつけ、従来の生理学的指標を超えた介入可能なリスク領域を示した。

臨床的意義: 術前評価に短時間の心理スクリーニング(例:K6や抑うつスクリーニング)を組み込み、周術期のメンタルヘルス支援を検討することでリスク低減が期待できる。

主要な発見

  • K6完了者938例のうち、非心臓手術後1年以内の死亡は7.9%であった。
  • 多変量調整後、術前の苦痛は30日合併症(AOR 1.12;95%CI 1.02–1.22)および1年死亡(AOR 1.09;95%CI 1.02–1.18)を予測した。
  • 1年死亡との関連は不安ではなく抑うつ症状によって主に駆動された。

方法論的強み

  • 術当日の標準化されたK6評価を伴う前向きコホート(VISION)デザイン
  • 人口統計、手術種別、併存症、喫煙など主要交絡で調整

限界

  • サブサンプル規模が小さく(2011–2012年)、推定精度と今日的な一般化可能性に制約
  • 自己申告の苦痛評価かつ単一時点評価であり、残余交絡の可能性が残る

今後の研究への示唆: 周術期メンタルヘルス介入(短期心理療法、協働ケアなど)が手術アウトカムに与える影響を検証するランダム化またはプラグマティック試験が求められる。

3. がん患者における脳卒中死亡の時間的推移と関連リスク因子

54.5Level IIIコホート研究Journal of clinical neuroscience : official journal of the Neurosurgical Society of Australasia · 2025PMID: 40252475

SEERの約592万例(2000–2020年)解析で、2.0%が脳卒中で死亡した。若年(≤39歳:SMR 2.31)と無治療(SMR 1.36)でリスクが最も高く、がん種横断で時間経過とともに低下傾向を示した。高齢、男性、非白人、中枢神経・呼吸器・頭頸部がんでリスクは上昇し、化学療法や放射線治療の施行はリスク低下と関連した。

重要性: 国規模でがん横断の脳卒中死亡リスクを定量化し、周術期およびサバイバーシップ計画に重要な高リスク群を明確化した。

臨床的意義: 特に若年・無治療例や中枢神経・呼吸器・頭頸部がんでは、血管リスク評価と予防を強化し、腫瘍内科・神経内科と連携した周術期計画を行うべきである。

主要な発見

  • 初発がん5,922,533例中、56,686例(2.0%)が脳卒中で死亡。
  • 脳卒中死亡のSMRは≤39歳(2.31)と無治療患者(1.36)で最も高かった。
  • 高齢(HR 1.11)、男性(HR 1.06)、非白人(HR 1.13)、中枢神経(HR 3.42)・呼吸器(HR 1.38)・頭頸部(HR 1.37)がんでリスク増。化学療法・放射線療法はリスク低下と関連(各HR 0.69)。

方法論的強み

  • 20年に及ぶ超大規模な集団ベース・コホート
  • SMR・APC・多変量ハザードモデルによるリスクと経時変化の定量化

限界

  • 後ろ向きレジストリで脳卒中病型や治療詳細が乏しく、残余交絡の制御に限界
  • 関連は因果を示さず、治療選択バイアスの可能性が高い

今後の研究への示唆: がん病期・治療詳細・血管リスクを統合した前向き研究と、高リスク群に対する標的予防戦略の評価が必要。