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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

周術期麻酔実践に資する無作為化試験が3件報告された。帝王切開後鎮痛では脊髄くも膜下腔内ヒドロモルフォンがモルヒネに非劣性であった。脊髄くも膜下麻酔下の分娩時帝王切開では、静注グルコン酸カルシウムの予防投与が産後出血量と追加子宮収縮薬使用を減少させた。一方、胸腔鏡下肺切除後の肋間神経冷凍鎮痛は急性疼痛を改善せず、1カ月時の咳嗽時疼痛が高かった。

概要

周術期麻酔実践に資する無作為化試験が3件報告された。帝王切開後鎮痛では脊髄くも膜下腔内ヒドロモルフォンがモルヒネに非劣性であった。脊髄くも膜下麻酔下の分娩時帝王切開では、静注グルコン酸カルシウムの予防投与が産後出血量と追加子宮収縮薬使用を減少させた。一方、胸腔鏡下肺切除後の肋間神経冷凍鎮痛は急性疼痛を改善せず、1カ月時の咳嗽時疼痛が高かった。

研究テーマ

  • 産科麻酔:脊髄くも膜下腔内オピオイド戦略と出血対策の最適化
  • 周術期多角的鎮痛:新規区域・補助的手技の評価
  • 実臨床を変える試験と否定的RCTの価値

選定論文

1. 帝王切開後鎮痛における脊髄くも膜下腔内ヒドロモルフォン対モルヒネ:無作為化非劣性試験

81Level Iランダム化比較試験Anesthesia and analgesia · 2025PMID: 40493496

選択的帝王切開126例で、ヒドロモルフォン75µgはモルヒネ150µgに対して術後24時間疼痛で非劣性であった(群間差-0.46、95%CI -1.0〜0.1)。オピオイド消費、ObsQoR-11、初回追加投与時間、掻痒・悪心介入、胎児アウトカムはいずれも同等であった。

重要性: 帝王切開の脊髄くも膜下麻酔におけるオピオイド選択を、厳密な非劣性RCTで検証し、モルヒネ代替としてのヒドロモルフォンの有用性を裏付けた。

臨床的意義: 術後鎮痛を損なうことなく、ヒドロモルフォン75µgはモルヒネ150µgの代替となり得る。薬剤供給不足や患者の不耐に際し、フォーミュラリやプロトコール策定に有用である。

主要な発見

  • ヒドロモルフォン75µgは、術後24時間の平均NRS疼痛においてモルヒネ150µgに非劣性であった(差 -0.46、95%CI -1.0〜0.1)。
  • 24時間オピオイド消費量、ObsQoR-11、初回追加投与時間、掻痒・悪心への介入に有意差はなかった。
  • 新生児Apgarスコアを含む周産期アウトカムは同等であった。

方法論的強み

  • 事前規定マージンによる無作為化・盲検非劣性デザイン。
  • 確立されたED90用量を用い、臨床的に重要な複数の副次評価項目を設定。

限界

  • 主要評価は24時間時点の想起に基づく疼痛評価であり、想起バイアスの可能性。
  • 症例数は中等度で、選択的帝王切開に限定されており高リスク症例への一般化に限界。

今後の研究への示唆: 多施設・多様な集団での再現性確認、用量・モニタリングの標準化、母体副作用や授乳、稀な有害事象の評価が望まれる。

2. 脊髄くも膜下麻酔下の分娩時帝王切開における子宮弛緩予防としての静脈内グルコン酸カルシウムの効果:プラセボ対照無作為化臨床試験

76.5Level Iランダム化比較試験International journal of obstetric anesthesia · 2025PMID: 40493979

分娩時帝王切開367例において、カルシウム予防投与は子宮緊張の変化を改善しなかったが、産後出血量を55.6 mL減少(95%CI 24.3–86.8、P=0.001)させ、追加子宮収縮薬使用を約半減させた(21.7%対42.39%、RR 0.51、95%CI 0.37–0.71)。輸血・昇圧薬使用は同等であった。

重要性: 高リスク産科領域の大規模盲検RCTにより、主要評価は陰性ながら、低コスト介入で出血量と追加子宮収縮薬使用を減らし得ることが示された。

臨床的意義: 脊髄くも膜下麻酔下の分娩時帝王切開では、臍帯クランプ後のグルコン酸カルシウム1 g静注により出血量と追加子宮収縮薬使用の減少が期待できる。主観的評価を用いた主要項目や輸血不変を踏まえた導入判断が必要である。

主要な発見

  • 術者評価の子宮緊張変化は有意差なし(P=0.11)。
  • 産後出血量はカルシウム群で少なかった(526.0±155.2 vs 581.5±148.9 mL、差55.6 mL、95%CI 24.3–86.8、P=0.001)。
  • 追加子宮収縮薬の使用は低下(21.7% vs 42.39%、RR 0.51、95%CI 0.37–0.71、P=0.001)。輸血・昇圧薬は同等。

方法論的強み

  • 前向き・無作為化・プラセボ対照・盲検デザインで症例数も十分。
  • 前向き登録され、臨床的に重要な副次評価項目を設定。

限界

  • 主要評価(子宮緊張スコア)は術者の主観評価である。
  • 単一国での実施であり、出血量減少にもかかわらず輸血は不変であった。

今後の研究への示唆: 多施設での検証、用量・投与タイミングの最適化、客観的な子宮収縮評価やハードエンドポイントを用いた高リスク集団での検討が必要。

3. 胸腔鏡下肺切除術後の急性疼痛に対する肋間神経冷凍鎮痛:無作為化対照予備試験

75.5Level Iランダム化比較試験The Journal of thoracic and cardiovascular surgery · 2025PMID: 40490216

傍脊椎ブロックを含む標準鎮痛に肋間神経冷凍鎮痛を追加しても、術後24時間の咳嗽時疼痛は低下せず(4.7±2.7 vs 4.8±2.9、P=0.78)、7日以内の回復指標にも差はなかった。1カ月時の咳嗽時疼痛は冷凍群で高く(4.7±2.4 vs 3.4±2.0、P=0.036)、3・6カ月では差はなかった。

重要性: 二重盲検RCTにより、VATS後の肋間神経冷凍鎮痛の常用に否定的な高品質エビデンスが示され、効果が乏しく1カ月時に不利益の可能性もある介入の普及抑制に資する。

臨床的意義: VATS肺切除後の単回傍脊椎ブロック主体の多角的鎮痛に、肋間神経冷凍鎮痛を常用追加すべきではない。効果が実証された区域・全身鎮痛の最適化に注力すべきである。

主要な発見

  • 術後24時間の咳嗽時疼痛に差はなし(4.7±2.7 vs 4.8±2.9、P=0.78)。
  • 7日以内の回復指標(オピオイド消費、副作用、回復の質)は改善せず。感覚消失やDN4スコアも同等。
  • 1カ月時の咳嗽時疼痛は介入群で高かった(4.7±2.4 vs 3.4±2.0、P=0.036)。3・6カ月では差なし。

方法論的強み

  • 無作為化二重盲検対照デザインで、両群に標準多角的鎮痛を実施。
  • 6カ月までの縦断評価を行い、妥当性のある疼痛・神経障害指標を用いた。

限界

  • 予備的な症例数(n=80)であり、稀な有害事象やサブグループ解析の検出力に限界。
  • VATS肺葉切除に限定され、他の胸部手術への一般化に限界がある。

今後の研究への示唆: 冷凍条件や患者選択、持続区域遮断との比較を含む追加試験が必要。1カ月時の疼痛増加の機序解明も求められる。