麻酔科学研究日次分析
本日の注目は3本の麻酔関連研究です。多施設二重盲検RCTで、単孔式胸腔鏡手術において外科医施行の肋間神経ブロックが脊柱起立筋平面ブロックより鎮痛に優れることが示されました。二施設RCTでは胸部傍脊椎ブロックに基づくオピオイドフリー麻酔が乳癌手術後の早期回復を改善。さらに、あらかじめ登録されたメタ解析は、術前うつ病が術後在院日数の延長と関連することを2,770万人のデータで示しました。
概要
本日の注目は3本の麻酔関連研究です。多施設二重盲検RCTで、単孔式胸腔鏡手術において外科医施行の肋間神経ブロックが脊柱起立筋平面ブロックより鎮痛に優れることが示されました。二施設RCTでは胸部傍脊椎ブロックに基づくオピオイドフリー麻酔が乳癌手術後の早期回復を改善。さらに、あらかじめ登録されたメタ解析は、術前うつ病が術後在院日数の延長と関連することを2,770万人のデータで示しました。
研究テーマ
- 胸部および乳腺手術における区域麻酔の最適化
- 周術期のオピオイド削減・オピオイドフリー戦略
- 周術期メンタルヘルスと術後回復
選定論文
1. 単一ポート胸腔鏡補助下胸部手術における脊柱起立筋平面ブロック対肋間神経ブロック:多施設二重盲検前向き無作為化プラセボ対照試験
単孔式VATS100例で、ICNBはESPBに比べ12時間(10.9 vs 17.6 mg)および24時間(18.7 vs 26.7 mg)のモルヒネ消費を有意に減少し、早期疼痛も軽減、救済鎮痛の必要性も低下しました。安全性と在院日数は同等で、ESPBでは局所麻酔薬の全身吸収が高い所見が得られました。
重要性: 二重盲検RCTとして、広く用いられる胸壁ブロック2手技を直接比較し、単孔式VATS鎮痛でESPB優先の慣行に一石を投じる強力なエビデンスです。
臨床的意義: 単孔式VATSでは、直視下で施行する肋間神経ブロックを第一選択として検討し、オピオイド削減と局所麻酔薬全身曝露の低減を図ることが推奨されます。
主要な発見
- 12時間のモルヒネ消費量:ICNB 10.9 mg vs ESPB 17.6 mg(P=0.0015)
- 24時間のモルヒネ消費量:ICNB 18.7 mg vs ESPB 26.7 mg(P=0.018)
- 術後2時間の疼痛が低く、救済鎮痛の必要性が少ない(16% vs 40%、P=0.0033)
- 満足度・合併症・在院日数に差はなく、ESPBで局所麻酔薬の全身吸収が高い
方法論的強み
- 多施設・二重盲検・プラセボ対照の無作為化デザイン
- 主要評価項目が客観的(モルヒネ消費量)で、局所麻酔薬血中濃度の薬物動態評価を実施
限界
- 症例数100例のため稀な有害事象の検出力は限定的
- ERAS下の単孔式VATSに限られ、長期疼痛アウトカムは未評価
今後の研究への示唆: 長期疼痛や慢性術後胸痛の発生、異なる胸部手術アプローチやリスク層別での費用対効果の検証が求められます。
2. 胸部傍脊椎ブロックに基づくオピオイドフリー麻酔プロトコルは乳癌手術後の回復を改善する:二施設前向き無作為化対照試験
乳癌手術252例で、OFA+TPVBは24時間後のQoR-15を改善(139.1 vs 132.5、差6.6[95%CI 4.87–8.40])、48時間でも優越性を示し、早期疼痛と術後悪心・嘔吐を減少させました。排尿までの時間や在院日数に差はありませんでした。
重要性: 乳癌手術において、傍脊椎ブロックを核とする体系的OFAが患者中心の回復を改善しPONVを低減することを無作為化データで示しました。
臨床的意義: 乳癌手術ではTPVBを基盤とするOFAプロトコルを導入することで、回復の質向上とPONV低減が期待でき、鎮痛の十分性確認と標準化ERAS導入が望まれます。
主要な発見
- 24時間後QoR-15:OFA 139.12 vs OA 132.48、差6.6(95%CI 4.87–8.40)、P<0.001
- 48時間後QoR-15もOFAが高値(145.31 vs 142.18)
- OFA群で安静時(6時間)および運動時(12時間以内)の疼痛スコアが低い
- OFA群で術後悪心・嘔吐が少ない/排尿までの時間・在院期間は差なし
方法論的強み
- 二施設にまたがる前向き無作為化対照デザイン
- 事前にMCIDを設定した妥当性のある患者報告アウトカム(QoR-15)の使用
限界
- 盲検化の記載がなく、麻酔管理の実施バイアスの可能性
- 対象が乳癌手術に限定され、長期アウトカムが未評価
今後の研究への示唆: 他の手術領域への一般化、OFA構成要素・用量の最適化、長期機能予後やオピオイド使用の影響評価が必要です。
3. 大手術後の在院日数に対する術前うつ病の関連:系統的レビューとメタ解析
57研究・2,770万例超の解析で、術前うつ病は在院日数の延長(平均差0.98日、95%CI 0.35–1.62)と関連しました。延長在院の調整オッズ比も上昇(OR 1.27、95%CI 1.11–1.46)。バイアスや出版バイアスにより確実性は限定的でした。
重要性: 事前登録メタ解析として、さまざまな手術領域での在院日数への影響量を定量化し、修正可能な周術期メンタルヘルス介入の重要性を示しました。
臨床的意義: 術前うつ病の系統的スクリーニングと介入により在院延長の低減が期待され、今後は在院日数短縮効果を検証する介入試験が必要です。
主要な発見
- 57研究、総計2,770万8,719例を解析
- 術前うつ病で術後在院日数が平均0.98日延長(95%CI 0.35–1.62)
- 在院延長の調整オッズ比は1.27(95%CI 1.11–1.46)と上昇
- ROBINS-Eでバイアス評価、GRADEで出版バイアス等により確実性は限定的
方法論的強み
- PROSPERO事前登録と包括的文献検索(Medline、Embase、Cochrane、PsycINFO)
- GRADEおよびROBINS-Eを用い、調整・非調整推定値を併合
限界
- 観察研究中心で残余交絡や異質性が残る
- 出版バイアスの存在により効果推定の確実性が低下
今後の研究への示唆: 周術期うつ病介入の在院日数への効果を検証する実践的試験の実施と、手術種別・重症度別のリスク調整・サブグループ解析の高度化が求められます。