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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

多施設ランダム化試験により、体外循環中の活性化凝固時間(ACT)目標は≥480秒に対し≥400秒でも輸血率は同等で、早期出血がやや少なく血栓塞栓症の増加は認めませんでした。国際的コンセンサスにより小児周術期研究のコアアウトカムセットが策定され、患者中心のアウトカム標準化が推進されました。さらに、鎖骨上腕神経叢ブロックの幹間法は古典的アプローチに対する非劣性が示せず、横隔神経麻痺の発生が高いことが判明しました。

概要

多施設ランダム化試験により、体外循環中の活性化凝固時間(ACT)目標は≥480秒に対し≥400秒でも輸血率は同等で、早期出血がやや少なく血栓塞栓症の増加は認めませんでした。国際的コンセンサスにより小児周術期研究のコアアウトカムセットが策定され、患者中心のアウトカム標準化が推進されました。さらに、鎖骨上腕神経叢ブロックの幹間法は古典的アプローチに対する非劣性が示せず、横隔神経麻痺の発生が高いことが判明しました。

研究テーマ

  • 心肺バイパス中の周術期抗凝固目標
  • 小児周術期アウトカムの標準化
  • 区域麻酔手技の比較有効性

選定論文

1. 体外循環を用いた心臓手術における活性化凝固時間目標の比較:前向き多施設ランダム化比較試験

79.5Level Iランダム化比較試験Journal of cardiothoracic and vascular anesthesia · 2025PMID: 40738818

多施設同等性RCT(n=1,021)において、CPB中のACT目標≥400秒は≥480秒に対し輸血率で同等であった。低ACT群で術後6・24時間の出血量がわずかに少なく、早期ヘモグロビン値が軽度高かったが臨床的有意差は小さく、血栓塞栓症は同等であった。

重要性: CPB中の抗凝固目標をより低く安全に設定でき、出血低減の可能性が示されたため、体外循環・麻酔管理プロトコールに直接影響し得る。

臨床的意義: CPB中のACT目標を≥400秒に設定することを検討でき、早期出血の軽減が期待される一方、安全性は担保される。各施設での検証と心臓麻酔・体外循環チームの監督が望まれる。

主要な発見

  • PRBC輸血率はACT≥400秒群と≥480秒群で同等(19.1%対17.2%)。
  • 低ACT群は術後6時間(中央値260対300 mL, p=0.003)・24時間(480対550 mL, p=0.007)で出血量が少なかった。
  • 低ACT群で早期ヘモグロビン値がわずかに高いが、明確な臨床的意義は示されなかった。
  • 血栓塞栓イベントは両群で同程度であった。

方法論的強み

  • 多施設前向きランダム化単盲検の同等性デザインで大規模サンプル(n=1,021)。
  • 臨床的に重要な副次評価項目を事前規定し、標準化した測定を実施。

限界

  • 単盲検であり、パフォーマンスバイアスを完全には排除できない。
  • 出血量やヘモグロビンの差は絶対値として小さく、個々の患者への臨床的解釈に限界。

今後の研究への示唆: ACT≥400秒を組み込んだヘパリン管理プロトコルの多様な集団・施設での検証、費用対効果や抗線溶療法との相互作用の評価が求められる。

2. 小児周術期研究のコアアウトカムセット:国際的ステークホルダー参画による合意報告(Pediatric Perioperative Outcomes Group)

74.5Level IVコホート研究Anesthesiology · 2025PMID: 40742630

国際調査(n=1,178)とデルファイ合意(n=67)により、新生児、乳児、小児、思春期の各年齢層における周術期研究のコアアウトカムが策定された。共通コアは心肺有害事象、疼痛とその緩和評価、予期せぬ医療受診であり、回復の質(新生児除く)や日常機能への復帰(思春期)も含まれた。

重要性: 小児周術期試験のアウトカム報告を患者中心に標準化し、今後の研究の比較可能性と臨床的関連性を高める枠組みを提供する。

臨床的意義: 研究者は試験設計やレジストリに本コアアウトカムを組み込み、疾患特異的評価項目と併せて比較可能で患者関連性の高い報告を行うべきである。

主要な発見

  • 9か国の患者、保護者、医療者計1,178名による国際調査を実施。
  • 67名の専門家による2回のデルファイで4つの年齢群のコアセットに全会一致で合意。
  • 全年齢でのコア:心肺有害事象、疼痛、疼痛緩和の評価、予期せぬ医療受診。
  • 回復の質は新生児を除く群に、日常機能への復帰は思春期群に含まれた。

方法論的強み

  • COMETに準拠した国際的かつ多職種・当事者参画のプロセス。
  • デルファイ法とオンライン会議での合意確認という体系的手法。

限界

  • 地域・参加者構成により代表性に限界がある可能性。
  • 多様な医療体制での導入・実装は今後の課題。

今後の研究への示唆: 各地域での実装可能性の前向き検証、年齢に応じた測定法の整備、レジストリや試験プロトコルへの統合が必要である。

3. 鎖骨上腕神経叢ブロックにおける幹間法と古典的アプローチの比較:上肢手術に対する感覚・運動遮断を評価した非劣性ランダム化比較試験

73.5Level Iランダム化比較試験Korean journal of anesthesiology · 2025PMID: 40740147

ランダム化非劣性試験(n=122)で、幹間法は20分時点の完全感覚遮断で古典的アプローチに対する非劣性を示せなかった。IA-SCBは筋皮神経遮断が劣り、施行時間が長く、片側横隔膜麻痺の発生が高かった。

重要性: 幹間法の限界と呼吸器合併症リスクを明確化し、鎖骨上神経叢ブロックにおける手技選択・教育に資する。

臨床的意義: 迅速で確実な発現や横隔膜麻痺の最小化を重視する場合は古典的アプローチを優先。幹間法を行う場合は施行時間の延長と横隔膜機能への影響を考慮する。

主要な発見

  • 20分時点の完全感覚遮断:CA 79.3%、IA 72.7%;非劣性は不成立(マージン−5%、推定差−6.6%)。
  • IA-SCBは筋皮神経遮断が劣っていた。
  • IA-SCBは施行時間が長かった。
  • IA-SCBで片側横隔膜麻痺の発生が高かった。

方法論的強み

  • 局所麻酔薬量と評価間隔を標準化したランダム化非劣性デザイン。
  • 末梢終枝と横隔膜機能を含む包括的評価。

限界

  • 単施設・中規模サンプルで非劣性マージンの検出力に制限がある可能性。
  • 評価は30分までで、長時間のブロック品質や鎮痛効果は未検討。

今後の研究への示唆: 患者中心アウトカム(鎮痛持続、呼吸機能)を含む多施設大規模試験と、幹間法の横隔膜麻痺低減に向けた手技改良が必要。