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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

本日の注目研究は3本です。国際多施設RCT(PROTHOR)は、一側肺換気中の高PEEPとリクルートメント手技が術後肺合併症を減らさず、術中合併症を増加させる可能性を示しました。国際前向きコホート(ALICE)は、術前貧血の高い有病率と多因子性の病因(鉄欠乏に加えビタミンB12・葉酸欠乏等)を詳細化しました。TKA患者のRCTでは、内転筋管ブロックにおけるリポソームブピバカインが疼痛スコアとオピオイド使用量を低下させたものの、中等度以上の疼痛割合は変わりませんでした。

概要

本日の注目研究は3本です。国際多施設RCT(PROTHOR)は、一側肺換気中の高PEEPとリクルートメント手技が術後肺合併症を減らさず、術中合併症を増加させる可能性を示しました。国際前向きコホート(ALICE)は、術前貧血の高い有病率と多因子性の病因(鉄欠乏に加えビタミンB12・葉酸欠乏等)を詳細化しました。TKA患者のRCTでは、内転筋管ブロックにおけるリポソームブピバカインが疼痛スコアとオピオイド使用量を低下させたものの、中等度以上の疼痛割合は変わりませんでした。

研究テーマ

  • 一側肺換気中の術中換気戦略
  • 大手術における術前貧血の疫学と病因
  • 人工膝関節全置換術の区域麻酔鎮痛の最適化

選定論文

1. 胸部外科手術の一側肺換気中における高PEEP対低PEEPの術後肺合併症への影響(PROTHOR):多施設国際無作為化比較第3相試験

84Level Iランダム化比較試験The Lancet. Respiratory medicine · 2025PMID: 41240959

28カ国2200例の第3相RCTでは、一側肺換気中の高PEEP+リクルートメント手技は、低PEEP(リクルートメントなし)と比べ術後肺合併症を減少させませんでした。高PEEP群では術中低血圧と新規不整脈が増加し、低PEEP群では低酸素救済手技が多く実施されました。

重要性: 高PEEP+リクルートメントの常用に対して臨床的利益がなく、術中循環動態の不安定性が増すことを示し、世界的な換気戦略の見直しに資する決定的試験です。

臨床的意義: BMI<35 kg/m2の一側肺換気では高PEEP+リクルートメントの常用を避け、低PEEP(許容無気肺)を基本とし、酸素化と血行動態のバランスをとる個別化救済戦略を採用すべきです。

主要な発見

  • 主要評価項目(術後肺合併症)は同等:高PEEP 53.6% vs 低PEEP 56.4%、絶対差−2.68%ポイント(95%CI −6.36~1.01)、p=0.155。
  • 高PEEP群で術中合併症が増加:低血圧 37.3% vs 14.3%、新規不整脈 9.9% vs 3.9%。
  • 低PEEP群で低酸素救済手技がより多く実施(8.8% vs 3.3%)。
  • 群間で術後の肺外合併症や有害事象総数に差は認められなかった。

方法論的強み

  • 2200例による大規模・多施設・国際無作為化第3相試験。
  • 胸部麻酔に関連する事前規定のアウトカムを用いた修正ITT解析。

限界

  • BMI≥35 kg/m2の患者が除外されており、重度肥満症例への一般化に限界がある。
  • 術中換気戦略の盲検化は現実的でなく、パフォーマンスバイアスの可能性がある。

今後の研究への示唆: 個別化PEEPチューニングや代替の肺保護戦略を、肥満や肺機能低下などのサブグループで検証し、長期の肺機能アウトカムも評価する必要があります。

2. 大手術患者における術前貧血の病因と有病率(ALICE):国際前向き観察コホート研究

74.5Level IIコホート研究The Lancet. Global health · 2025PMID: 41240945

20カ国79施設・2702例の前向きコホートで術前貧血は31.7%と高頻度でした。病因が確認できた症例では鉄欠乏が最多(55.2%)でしたが、ビタミンB12(7.7%)や葉酸(14.5%)の欠乏も相当割合を占め、鉄に偏らない包括的評価の必要性が示されました。

重要性: 術前貧血の病因を国際的に精緻に示し、鉄補充に偏らない包括的な患者血液管理を後押しします。

臨床的意義: 術前貧血のスクリーニングは鉄代謝検査に加えビタミンB12と葉酸の評価を含めるべきであり、多因子性病因に対応したプロトコル整備が周術期成績の最適化に有用です。

主要な発見

  • 2702例の大手術患者で術前貧血の有病率は31.7%。
  • 病因が確認できた782例では、鉄欠乏55.2%、ビタミンB12欠乏7.7%、葉酸欠乏14.5%、慢性腎臓病8.7%。
  • 性別・年齢層・国を問わず、鉄欠乏が最も多い病因であった。

方法論的強み

  • 20カ国79施設にわたる前向き多施設デザイン。
  • 標準化された定義と幅広い対象で実臨床を反映。

限界

  • 病因解析は確認データのあるサブセット(貧血856例中782例)に限られ、選択バイアスの可能性がある。
  • 観察研究であり、因果関係や治療効果の推定はできない。

今後の研究への示唆: 鉄・B12・葉酸補充やCKD管理を組み合わせた標的介入の試験を行い、輸血率や術後成績への影響を定量化する必要があります。

3. 人工膝関節全置換術における内転筋管ブロックでのリポソームブピバカイン対ロピバカイン+神経周囲デキサメタゾン:無作為化臨床試験

67Level Iランダム化比較試験The Journal of arthroplasty · 2025PMID: 41240971

TKA患者72例のRCTで、リポソームブピバカインを用いたACBは、48時間時点の運動時中等度以上の疼痛発生割合に差はありませんでしたが、24〜48時間の疼痛スコアとオピオイド使用量を低下させ、回復の質を改善し、有害事象の増加は認めませんでした。

重要性: TKAで頻出する鎮痛戦略の選択に対し、能動対照と患者志向アウトカムで検証し、リポソーム製剤の費用対効果を考える材料を提供します。

臨床的意義: リポソームブピバカインによるACBは、疼痛強度とオピオイド使用量を減らし回復の質を高める選択肢になり得ますが、48時間時点の中等度以上の疼痛割合は減少しない可能性があります。費用と入手性を考慮して選択すべきです。

主要な発見

  • 主要評価(48時間の運動時中等度以上の疼痛)は差なし:47.2% vs 63.9%(RR 0.71;95%CI 0.43–1.16;P=0.149)。
  • リポソーム群で24・48時間の安静時・運動時NRS疼痛スコアが低下し、0–24時間および24–48時間のオピオイド使用量が減少(いずれもP<0.05)。
  • 24・48時間の回復の質が改善。有害事象発生率は群間で同等。

方法論的強み

  • 能動対照を用いた前向き無作為化デザインで、患者志向アウトカムを事前規定。
  • 大腿四頭筋機能を温存する内転筋管ブロックという臨床的に関連性の高い介入。

限界

  • 症例数が比較的少なく(n=72)、主要評価やサブグループ解析の検出力が限定的。
  • 追跡は48時間までで、機能回復やオピオイド関連有害事象など長期アウトカムは未評価。

今後の研究への示唆: 費用対効果評価と長期追跡を含む多施設RCTにより、機能回復、慢性化疼痛、オピオイド関連有害事象への影響を検証すべきです。