麻酔科学研究日次分析
麻酔領域の3つのランダム化試験が周術期管理を前進させた。胸腔鏡下肺切除術後では、連続脊柱起立筋膜面ブロックがオピオイド主体の鎮痛に対し非劣性でありながら回復と安全性を改善した。上部消化管内視鏡では、シプロフォル単独はシプロフォル+フェンタニルに非劣性で、呼吸・循環の安定性に優れたが咳嗽が増加した。さらに、レミマゾラム+エトミデート併用鎮静においてオリセリジンはスフェンタニルより呼吸抑制を減少させた。
概要
麻酔領域の3つのランダム化試験が周術期管理を前進させた。胸腔鏡下肺切除術後では、連続脊柱起立筋膜面ブロックがオピオイド主体の鎮痛に対し非劣性でありながら回復と安全性を改善した。上部消化管内視鏡では、シプロフォル単独はシプロフォル+フェンタニルに非劣性で、呼吸・循環の安定性に優れたが咳嗽が増加した。さらに、レミマゾラム+エトミデート併用鎮静においてオリセリジンはスフェンタニルより呼吸抑制を減少させた。
研究テーマ
- オピオイド低用量化・最適化による鎮静戦略
- 回復促進と合併症低減を目的とした区域麻酔
- 外来内視鏡鎮静の安全性最適化
選定論文
1. 胸腔鏡下肺切除術後の疼痛管理における連続脊柱起立筋膜面ブロックとオピオイド主体レジメンの鎮痛効果比較:前向き無作為化非盲検非劣性試験
VATS後の無作為化非盲検非劣性試験で、連続ESPBはオピオイド主体レジメンに対し鎮痛で非劣性を示し、24・48時間のQoR-15を有意に改善、術後肺合併症とPONV関連症状を減少させた。
重要性: 鎮痛の非劣性に加え回復と安全性を改善するオピオイドスパリングの区域麻酔を示し、胸部外科のERAS実装に影響する。
臨床的意義: VATS後の一次的鎮痛戦略として連続ESPBを採用することで、オピオイド曝露を抑えつつ回復の質を高め、肺合併症やPONVを減らせる可能性がある。
主要な発見
- 疼痛制御はオピオイド群に対し非劣性(痛みNRSのAUC;非劣性p=0.011)。
- 24時間(中央値差11)および48時間(中央値差10)のQoR-15が有意に高い(いずれもp<0.001)。
- 術後肺合併症が低減(RR 0.45;95% CI 0.21–0.96;p=0.031)。
- 術後の悪心・えづき・めまいが有意に少ない。
方法論的強み
- 前向き無作為化の非劣性デザインで、臨床的に重要な評価項目(QoR-15、合併症)を設定。
- PONVや肺合併症を含む包括的な安全性評価。
限界
- 非盲検デザインにより実施・評価バイアスの可能性。
- 対象がVATSに限定され一般化可能性に制約;抄録に症例数の記載がない。
今後の研究への示唆: 連続ESPBを他の区域麻酔やオピオイドスパリング多剤併用と比較する多施設盲検試験や、慢性痛・機能回復など長期転帰の検証が望まれる。
2. 上部消化管内視鏡におけるシプロフォル単独対シプロフォル+フェンタニルの有効性・安全性:ランダム化二重盲検比較試験
上部消化管内視鏡の二重盲検RCT(n=344)で、シプロフォル単独は鎮静成功において併用に非劣性であった。単独は呼吸抑制を減らし血行動態安定性を改善した一方、術中咳嗽の増加、導入・覚醒の軽度延長、術後めまいの増加を伴った。
重要性: オピオイドを用いないシプロフォル単独鎮静を支持し、手技成功を維持しつつオピオイド関連有害事象の低減が期待できる。
臨床的意義: 低リスクの上部内視鏡では、オピオイドを併用しないシプロフォル単独が呼吸・循環の安全性を高め得る。咳嗽や軽度めまいへの対応体制が望ましい。
主要な発見
- 鎮静成功率:単独99.4%、併用100%で非劣性を達成。
- シプロフォル単独は呼吸抑制が少なく血行動態が安定。
- トレードオフ:術中咳嗽増加(18.1% vs 2.9%、P=0.01)、導入・覚醒の軽度延長、術後めまい増加(15.2% vs 7%、P=0.03)。
方法論的強み
- 無作為化二重盲検・非劣性デザイン。
- 十分な症例数と標準化された投与法、客観的主要評価項目。
限界
- 単施設であり高リスク群や他施設手技への一般化に限界。
- ASA I–IIに限定、周術期直後以外の転帰は未評価。
今後の研究への示唆: 高リスク集団や他の内視鏡手技での検証、咳嗽緩和の気道反射対策を組み込んだプロトコルの評価が必要。
3. 消化管内視鏡におけるオリセリジンとスフェンタニルの安全性・有効性比較:単施設ランダム化比較試験
レミマゾラム+エトミデート併用の内視鏡鎮静RCT(解析約612例)で、オリセリジンはスフェンタニルに比べ呼吸抑制を低減(14.1% vs 21.8%;OR 0.59, 95% CI 0.39–0.90)し、鎮静成功率は両群ほぼ100%。安全性と患者満足度でオリセリジンが優れた。
重要性: 一般的な鎮静骨格下で、従来オピオイドに対するバイアス型μ作動薬の安全性優位(呼吸抑制の低減)を示し、内視鏡鎮静の主要リスクに対処する。
臨床的意義: 上部消化管内視鏡でレミマゾラム+エトミデートを用いる場合、鎮静成功を損なわず呼吸抑制を抑えるためにスフェンタニルよりオリセリジンを選択する意義がある。
主要な発見
- 呼吸抑制はオリセリジン群で低率:14.1% vs 21.8%(OR 0.59;95% CI 0.39–0.90)。
- 鎮静成功率は両群でほぼ100%。
- 副次評価(低酸素血症、気道介入、満足度)は総じてオリセリジンが有利との結論。
方法論的強み
- 安全性に関する主要評価項目を設定したランダム化比較デザイン。
- 単施設の手技鎮静研究としては大規模な症例数。
限界
- 盲検化の有無が不明、単施設で外的妥当性に制約。
- レミマゾラム+エトミデート併用という条件が他の鎮静骨格への一般化を制限。
今後の研究への示唆: 多施設盲検RCTでの再現性確認、および多様なリスク集団や他の鎮静併用下での至適用量戦略の検討が必要。