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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

本日の主要研究は、①熱傷専門病棟での多施設ステップドウェッジRCTにより、ノルモキセミア目標化が過剰酸素曝露を減らしつつ低酸素血症を増やさないこと、②覚醒下気管支鏡挿管に対するレミマゾラム–レミフェンタニルの至適バランス投与を二重盲検RCTで示したこと、③標準二剤予防下でも乗り物酔いパッチが甲状腺手術後PONVを半減させたこと、の3点です。

概要

本日の主要研究は、①熱傷専門病棟での多施設ステップドウェッジRCTにより、ノルモキセミア目標化が過剰酸素曝露を減らしつつ低酸素血症を増やさないこと、②覚醒下気管支鏡挿管に対するレミマゾラム–レミフェンタニルの至適バランス投与を二重盲検RCTで示したこと、③標準二剤予防下でも乗り物酔いパッチが甲状腺手術後PONVを半減させたこと、の3点です。

研究テーマ

  • 周術期酸素管理と安全性
  • 覚醒下気管支鏡挿管の鎮静戦略
  • 高リスク甲状腺手術におけるPONV予防強化

選定論文

1. 急性熱傷成人におけるノルモキセミア目標化の効果:補助酸素非使用日数を主要評価項目としたステップドウェッジ・クラスター無作為化臨床試験

76.5Level Iランダム化比較試験The journal of trauma and acute care surgery · 2025PMID: 40604863

米国6施設、1,437例のステップドウェッジRCTで、SpO2 90–96%の目標化によりノルモキセミア時間が増え、過剰酸素曝露が減少したが、低酸素血症は増加しなかった。28日までの補助酸素非使用日数は有意増加しなかったものの、安全性は維持され、90日までの病院非滞在日数にわずかな改善がみられた。

重要性: 熱傷診療に特化した酸素滴定戦略を多施設ランダム化で検証し、安全性を含む臨床アウトカムに与える影響を示した点で、広く実践されるが検証が乏しい領域に重要なエビデンスを提供する。

臨床的意義: 熱傷ICUでのSpO2 90–96%の目標管理は安全で、過剰酸素曝露を減らし得る。SpO2>96%時のFiO2漸減を徹底するプロトコル導入が推奨される。

主要な発見

  • ノルモキセミア時間は通常診療77%から目標化81%へ増加。
  • 過剰酸素は22%から17%へ減少し、低酸素は同等(0.7% vs 0.8%)。
  • 28日までの補助酸素非使用日数に有意差なし(調整平均差0.90日、95%CI -0.77~2.57、p=0.29)。
  • 90日までの病院非滞在日数は改善(調整平均差3.47日、95%CI 0.19–6.76)し、安全性は維持。

方法論的強み

  • 多施設ステップドウェッジ・クラスター無作為化という実践的デザイン
  • 大規模サンプル(n=1,437)と事前規定の安全性評価項目

限界

  • 主要評価項目(補助酸素非使用日数)の有意な改善は認めず
  • ステップドウェッジ設計に内在する時間的・クラスター効果や盲検化困難の可能性

今後の研究への示唆: 創治癒や肺合併症など患者中心アウトカム、プロトコール遵守や費用対効果の評価を拡充し、他の外科/ICU集団でもノルモキセミア目標化を検証する。

2. 覚醒下ファイバー気管挿管におけるレミマゾラムとレミフェンタニル併用鎮静の有効性と安全性:無作為化対照試験

74Level Iランダム化比較試験Annals of medicine · 2025PMID: 40605581

5群二重盲検RCT(n=150)で、レミマゾラム0.2–0.6 mg/kg/h+レミフェンタニル0.05 mcg/kg/minは正常気道患者のAFOI鎮静に有効であった。過鎮静はレミマゾラム単独および高用量併用(0.4–0.6 mg/kg/h)で多く、0.2 mg/kg/hが最もバランスが良好と示唆された。

重要性: 高難度の覚醒下挿管における新規鎮静薬レミマゾラムの至適用量を明確化し、安全域を示す実践的エビデンスである。

臨床的意義: AFOIでは、過鎮静を避けつつ良好な術野を得るため、レミマゾラム0.2 mg/kg/h+レミフェンタニル0.05 mcg/kg/minが推奨され、高用量レミマゾラムは避けるべきである。

主要な発見

  • 150例、5群二重盲検RCTでAFOIにおける用量を比較。
  • 過鎮静はレミマゾラム単独および高用量併用で多く:3.3%(単独)、17.2%(0.4群)、50.0%(0.6群)。
  • レミマゾラム0.2 mg/kg/h+レミフェンタニル0.05 mcg/kg/minが最良の有効性・安全性バランス。

方法論的強み

  • 前向き二重盲検ランダム化比較試験
  • 用量反応を検証する多群比較と標準化した局所麻酔手技

限界

  • 対象は正常気道に限られ、困難気道への一般化は不確実
  • 主要評価は鎮静深度であり、手技成功率などの詳細報告は限定的

今後の研究への示唆: 困難気道での検証、患者中心アウトカム(快適性・想起)評価、他レジメン(例:デクスメデトミジン)との直接比較が望まれる。

3. 甲状腺手術を受ける女性における乗り物酔いパッチの術後悪心・嘔吐への効果:無作為化臨床試験

66.5Level Iランダム化比較試験International journal of surgery (London, England) · 2025PMID: 40607966

標準的な制吐予防(デキサメタゾン+パロノセトロン)下でも、乗り物酔いパッチの追加により24時間PONVは34.6%から18.5%へ低下(RR 0.536)。高リスク例での経皮的抗コリン薬様介入を含む多面的予防の有用性を支持する。

重要性: 同質で高リスクな集団において、二剤予防上乗せの実行可能な追加効果を示し、臨床的に即応可能な予防戦略を提示する。

臨床的意義: 高リスクの女性甲状腺手術患者では、デキサメタゾン+パロノセトロンに乗り物酔いパッチを追加することで、24時間PONVをさらに低減できる可能性がある。

主要な発見

  • 標準二剤制吐予防下の女性甲状腺手術162例を無作為化比較。
  • 24時間PONVは対照34.6%からパッチ18.5%へ低下(RR 0.536、95%CI 0.310–0.925、p=0.021)。
  • QoR-15、疼痛、鎮静、消化管機能回復、有害事象等を含む包括的評価が実施された。

方法論的強み

  • 標準的予防療法をベースとした無作為割付
  • 臨床的に重要な主要評価項目(24時間PONV発生率)を事前規定

限界

  • 女性の甲状腺手術という単一集団であり、一般化に制約
  • 抄録上、二次評価項目や有害事象の詳細が限定的

今後の研究への示唆: 性別や術式の異なる集団での再現性検証、貼付の至適タイミング・期間や他制吐薬との相互作用、費用対効果の評価が必要。