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麻酔科学研究日次分析

3件の論文

本日の注目は周術期鎮痛に関する3報です。大規模多施設RCTでは、大手術後のマルチモーダル鎮痛にガバペンチンを追加しても入院期間などに利益はありませんでした。23,238例のVAデータを用いた操作変数解析では、NSAIDsとデキサメタゾン、または区域麻酔の併用が術後オピオイド使用を最大限減少させる至適非オピオイド併用であることが示唆されました。乳癌手術での術中ケタミンRCTは全体として有効性を示さない一方、基礎時の疼痛の時間的加算が高い患者での利益が示され、精密鎮痛の方向性を支持しました。

概要

本日の注目は周術期鎮痛に関する3報です。大規模多施設RCTでは、大手術後のマルチモーダル鎮痛にガバペンチンを追加しても入院期間などに利益はありませんでした。23,238例のVAデータを用いた操作変数解析では、NSAIDsとデキサメタゾン、または区域麻酔の併用が術後オピオイド使用を最大限減少させる至適非オピオイド併用であることが示唆されました。乳癌手術での術中ケタミンRCTは全体として有効性を示さない一方、基礎時の疼痛の時間的加算が高い患者での利益が示され、精密鎮痛の方向性を支持しました。

研究テーマ

  • マルチモーダル鎮痛併用の最適化
  • 周術期低付加価値介入のデイインプリメンテーション
  • 機序に基づく精密鎮痛

選定論文

1. 大手術後の疼痛管理におけるガバペンチン:プラセボ対照二重盲検ランダム化臨床試験(GAP試験)

81Level Iランダム化比較試験Anesthesiology · 2025PMID: 40663783

主要心臓・胸部・腹部手術1,196例の多施設二重盲検RCTで、周術期ガバペンチン(術前600mg、術後2日間300mg×2/日)は在院日数や重篤有害事象をプラセボと比べて減少させなかった。マルチモーダル鎮痛下では本用量・期間で臨床的利益は認められなかった。

重要性: 広く用いられる補助薬の有効性を直接検証した高品質RCTであり、利益がないことを示した。大手術でのガバペンチン常用の見直し(デイインプリメンテーション)を後押しする。

臨床的意義: 大手術後のマルチモーダル鎮痛にガバペンチンを常時追加する実践は再考すべきであり、効果が確立した介入に資源を振り向け、多剤併用を避けることが望ましい。

主要な発見

  • 在院日数に差なし:中央値5.94日(ガバペンチン)対6.15日(プラセボ);HR 1.07(95%CI 0.95–1.20), P=0.26。
  • 重篤有害事象は同程度:31.7%(ガバペンチン)対32.6%(プラセボ)。
  • 心臓(n=500)、胸部(n=346)、腹部(n=350)手術の各サブグループでも一貫した無効果。

方法論的強み

  • 多施設二重盲検プラセボ対照RCTで大規模(n=1,196)。
  • 主要評価項目が明確で、術後4週・4か月の追跡が事前規定。

限界

  • 主要評価(在院日数)は鎮痛以外の要因に左右され得て、鎮痛効果が希釈された可能性。
  • 術後2日間までの投与設計であり、用量・期間が異なれば結果が変わる可能性。

今後の研究への示唆: アウトカム改善が実証された鎮痛構成要素に注力し、補助薬を恩恵の大きいサブグループに的確に投与するための患者表現型分類の検討を進める。

2. 非心臓手術後の疼痛とオピオイド使用を減らす至適マルチモーダル鎮痛併用:操作変数解析

78.5Level IIコホート研究Regional anesthesia and pain medicine · 2025PMID: 40659442

23,238例の非心臓手術で麻酔科医を操作変数とする解析により、MMAは術後のオピオイド使用と疼痛を低減した。特にNSAIDs+デキサメタゾン、または区域麻酔の併用が最も効果的で、術後オピオイドを約28〜30 mg(モルヒネ換算)減少させた。

重要性: MMAの中で高い効果を持つ具体的な非オピオイド併用を定量的に示し、周術期プロトコル最適化に直結する実践的な指針を提供する。

臨床的意義: 非心臓手術後のオピオイド節減を最大化するため、NSAIDs+デキサメタゾンの併用と区域麻酔を積極的に採用し、MMAにおける静注アセトアミノフェンの位置付けを再評価する。

主要な発見

  • 23,238例で、MMAは入院患者の術後オピオイド使用を6.8 mg(OME換算)減少(95%CI −10.2〜−3.4)、外来患者の疼痛スコアを1.0低下(95%CI −1.6〜−0.4)。
  • NSAIDs+デキサメタゾンの併用でオピオイドが−29.5 mg(95%CI −36.9〜−19.5)減少。
  • 区域麻酔の併用でオピオイドが−28.4 mg(95%CI −40.1〜−16.8)減少。

方法論的強み

  • 複数施設に跨る操作変数デザインにより、擬似ランダム化を実現。
  • 大規模リアルワールド・コホートによる堅牢な治療効果推定。

限界

  • 観察研究であり、操作変数の妥当性(排除制約)に依存し、残余交絡の影響を完全には排除できない。
  • 退役軍人医療体制のコホートであり、高齢・男性が多く一般化可能性に制約。

今後の研究への示唆: NSAIDsとデキサメタゾン併用の相乗効果を前向き試験で検証し、出血・高血糖などのリスクを定量化するとともに、静注アセトアミノフェンの独立した価値を明確化する。

3. 乳癌手術後の急性術後痛に対する術中ケタミンのランダム化比較試験:基礎時の疼痛の時間的加算の調整効果

70Level Iランダム化比較試験Anesthesiology · 2025PMID: 40663518

乳房手術225例のRCTで、術中ケタミンは全体として術後2週の疼痛アウトカムを改善しなかった。一方、基礎時の疼痛の時間的加算が高い患者では有益の可能性が示され、表現型・機序に基づくケタミン適応の方向性が示唆された。

重要性: ケタミンの有効性を機序的疼痛表現型(時間的加算)に関連付け、画一的な周術期鎮痛から精密鎮痛への展開を後押しする。

臨床的意義: 乳房手術でのケタミンの一律使用は支持されない。術前に時間的加算などを定量化し、高い中枢感作傾向の患者に選択的に投与する戦略が考えられる。

主要な発見

  • 2週後の疼痛重症度・影響はケタミン群(n=113)と生理食塩水群(n=112)で差なし。
  • 調整解析:基礎時の時間的加算が高いほど、ケタミンによる疼痛低下が大きい傾向。
  • 術式は乳房部分切除53%、乳房切除16%、乳房切除+再建30%。

方法論的強み

  • 関連交絡を調整した前向きランダム化比較デザイン。
  • 定量的感覚検査を組み込み、機序的モデレーションを検証。

限界

  • モデレーション所見は探索的で、感覚検査は一部の患者に限られた。
  • 2週間の追跡では遷延性術後痛への長期影響を捉えきれない可能性。

今後の研究への示唆: 事前規定した試験で表現型誘導型ケタミン投与を検証し、周術期の時間的加算スクリーニングの実装可能性と長期疼痛アウトカムを評価する。