麻酔科学研究日次分析
本日の注目研究は3件です。JAMAの大規模多施設ランダム化比較試験により、術中の駆動圧ガイド高PEEPとリクルートメント併用は、標準低PEEPと比べて術後肺合併症を減少させないことが示されました。JAMA Surgeryの実用的多施設ランダム化試験では、非心臓手術前のフレイル高齢者に対する在宅型プレハビリテーションは全体として有益性を示しませんでした。Critical Careのターゲットトライアル模倣研究は、系統的超音波ガイド下では鎖骨下静脈アプローチが感染・血栓のリスクを低減し、機械的合併症の増加なく優先されうることを示唆しています。
概要
本日の注目研究は3件です。JAMAの大規模多施設ランダム化比較試験により、術中の駆動圧ガイド高PEEPとリクルートメント併用は、標準低PEEPと比べて術後肺合併症を減少させないことが示されました。JAMA Surgeryの実用的多施設ランダム化試験では、非心臓手術前のフレイル高齢者に対する在宅型プレハビリテーションは全体として有益性を示しませんでした。Critical Careのターゲットトライアル模倣研究は、系統的超音波ガイド下では鎖骨下静脈アプローチが感染・血栓のリスクを低減し、機械的合併症の増加なく優先されうることを示唆しています。
研究テーマ
- 術中換気戦略と術後肺合併症
- フレイル高齢手術患者におけるプレハビリテーションの有効性
- 超音波ガイド下中心静脈アクセス部位選択と合併症
選定論文
1. 術中の駆動圧ガイド高PEEP対標準低PEEP:術後肺合併症に対するランダム化比較試験
開腹手術のハイリスク成人では、駆動圧ガイド高PEEP+リクルートメントは、標準低PEEPと比べて術後肺合併症を減少させませんでした。高PEEP群では術中低血圧と昇圧薬使用が増加し、低PEEP群では一過性の酸素化低下がやや多くみられました。いずれも低一回換気量換気が用いられています。
重要性: 論争の的であった術中高PEEP+リクルートメントのルーチン使用に対し、予防効果がないことを示す高品質のエビデンスを提示し、換気戦略の見直しに資する重要な試験です。
臨床的意義: 開腹手術における術後肺合併症予防目的での高PEEP+リクルートメントの常用は避け、低一回換気量を基本とし、血行動態許容性を重視すべきです。PEEPの個別最適化は選択的な生理学的適応に限ることが推奨されます。
主要な発見
- 主要評価項目(肺合併症複合):高PEEP 19.8% vs 低PEEP 17.4%、差 2.5%(95%CI −1.5~6.4%)、P=0.23
- 高PEEP群で術中低血圧と昇圧薬使用が増加、低PEEP群でSpO2低下イベントが多い
- 全例で低一回換気量換気を施行、欧州5か国29施設、完了例n=1435
方法論的強み
- 大規模多施設ランダム化比較試験で完遂率が高い
- 低一回換気量換気の標準化と事前規定の評価項目
限界
- 複合主要評価により個々のイベントに対する効果が希薄化する可能性
- 術中戦略への完全な盲検化が困難、開腹手術への一般化が中心
今後の研究への示唆: 高PEEPやリクルートメントの恩恵を受けうる生理学的サブグループの同定、至適駆動圧目標の精緻化、血行動態最適化を組み込んだ換気プロトコルの検証が求められます。
2. フレイル高齢手術患者に対する在宅型プレハビリテーション:多施設ランダム化臨床試験
フレイル高齢者に対する在宅型プレハビリテーションは、30日後の障害や入院中合併症を通常診療と比べて低減しませんでした。運動遵守率が75%を超えた患者では障害軽減がみられたものの、合併症は減少しませんでした。主な遵守障壁は優先順位の競合と動機付けでした。
重要性: 実臨床下の多施設RCTとして、フレイル高齢者に対するプレハビリテーションの「万能性」を否定し、遵守支援や対象選定の重要性に焦点を当てるエビデンスを提供します。
臨床的意義: フレイル高齢者に在宅プレハビリを一律に適用しても有益とは限らず、遵守向上策や効果が見込める患者の選別が重要です。行動変容支援やモニタリングの導入を検討すべきです。
主要な発見
- 術後30日の障害に有意差なし(調整平均差−1.4;97.5%CI −4.9~2.0;P=0.36)
- 入院中合併症の減少なし(調整OR 1.05;97.5%CI 0.73–1.49;P=0.78)
- 運動遵守>75%で障害は低下(差−4.9)も、合併症に差はなし
方法論的強み
- 実用的多施設ランダム化デザインで臨床医・評価者は盲検化
- 事前規定の共同主要評価項目と混合効果モデルによる調整解析
限界
- 参加者の盲検化は部分的で、手術の不均質性が大きい
- 遵守のばらつきにより効果が希釈された可能性、COVID-19期の実施上の制約も影響しうる
今後の研究への示唆: 行動支援・遠隔モニタリング・用量調整を組み合わせた遵守最適化型・対象選択型プレハビリを開発し、生理学的欠損の明確な集団で機能的評価項目を用いて検証すべきです。
3. 系統的超音波ガイド下における中心静脈カテーテル留置の部位別合併症:3SITES試験を再検討するターゲットトライアル模倣
超音波ガイドの普遍的適用を仮定したターゲットトライアル模倣では、鎖骨下静脈CVCは内頸・大腿に比べ、CRBSIと症候性DVTが少なく、重篤な機械的合併症の増加は認められませんでした。現代の超音波ガイド下実践において鎖骨下アプローチを優先する根拠となります。
重要性: 因果推論で古典的RCT結果を現行の超音波ガイド実践に再適用し、感染・血栓リスク低減と機械的合併症のバランスに関する実用的指針を提供します。
臨床的意義: 実施可能であれば、厳格な無菌操作と熟練者によるリアルタイム超音波ガイド下で鎖骨下静脈を優先し、CRBSIおよびDVTリスクを低減しつつ重大な機械的合併症を増やさない実践が推奨されます。
主要な発見
- 一次複合(CRBSIまたは症候性DVT)は鎖骨下で大腿(P=.02)、内頸(P=.001)より低率
- CRBSIは鎖骨下が内頸より有意に少ない(P=.001)。無症候性血栓は大腿・内頸で高頻度
- 重大な機械的合併症は稀で部位間差はなし。カテーテル本数n=3409
方法論的強み
- 逆確率重み付けを用いたターゲットトライアル模倣で交絡を補正
- 3部位を対象とする大規模解析で臨床的に重要なアウトカムを評価
限界
- 観察研究の模倣であり、残余交絡やモデル仮定への依存がある
- 原データの超音波使用は限定的で、反事実推定が全ての差異を捉えきれない可能性
今後の研究への示唆: 超音波ガイド義務化下での前向き比較研究、術者トレーニング基準や予防バンドルの最適化によりCVC合併症のさらなる低減を目指す研究が望まれます。