麻酔科学研究週次分析
今週の麻酔学文献は、臨床応用に直結する実践的な試験や機序研究が目立ちました。注目は、小児人工呼吸管理でイソフルラン吸入鎮静が静脈内ミダゾラムと非劣である多施設第3相RCT、過酸素がsGCヘム酸化を介して内皮非依存性血管拡張を障害することを示したランダム化機序研究、大手術後にガバペンチン追加の利益を否定した大規模多施設RCTです。これらはPICUでの吸入鎮静導入、術中酸素管理の厳格化、低付加価値鎮痛薬の見直しを支持します。
概要
今週の麻酔学文献は、臨床応用に直結する実践的な試験や機序研究が目立ちました。注目は、小児人工呼吸管理でイソフルラン吸入鎮静が静脈内ミダゾラムと非劣である多施設第3相RCT、過酸素がsGCヘム酸化を介して内皮非依存性血管拡張を障害することを示したランダム化機序研究、大手術後にガバペンチン追加の利益を否定した大規模多施設RCTです。これらはPICUでの吸入鎮静導入、術中酸素管理の厳格化、低付加価値鎮痛薬の見直しを支持します。
選定論文
1. 侵襲的人工呼吸管理下の小児に対する吸入イソフルラン鎮静(IsoCOMFORT):多施設・無作為化・能動対照・評価者マスク化・非劣性第3相試験
IsoCOMFORTは多施設・評価者マスク化の非劣性RCT(n=96)で、人工呼吸中の小児において吸入イソフルランは静脈内ミダゾラムと比べCOMFORT‑B目標鎮静域内滞在時間で非劣であり、安全性も同等で治療関連死亡は報告されませんでした。
重要性: 吸入鎮静をPICUの現実的選択肢として支持する初の多施設第3相エビデンスであり、小児ICUの鎮静薬選択や機器導入計画に影響を与える可能性があります。
臨床的意義: 気化器を備える施設では、イソフルランを人工呼吸中の小児鎮静に導入して鎮静薬選択の幅を広げ、鎮静目標や安全性を損なわず運用の柔軟性を高めることが可能です。
主要な発見
- COMFORT‑B目標域内滞在時間の非劣性を確認:イソフルラン68.94% vs ミダゾラム62.37%、差は事前設定マージン内。
- 重篤有害事象は両群で同等かつ薬剤関連とは判断されず、治療関連死亡はなし。
- 19施設のPICUで2:1無作為化、COMFORT‑Bに基づく標準化投与で最大48±6時間まで評価。
2. 周術期の血管機能に対する酸素の影響:ランダム化臨床試験
予定心臓手術200例の無作為化試験で、術中過酸素は内皮依存性FMDを変えなかったものの、生体外での内皮非依存性血管拡張を障害し、sGCヘム酸化を介する機序を示しました。多面的評価によりsGCのレドックス状態が治療標的となり得ることが示唆されます。
重要性: 術中のルーチン過酸素に対する見直しを促すヒトでの機序的試験データを示し、可溶性グアニル酸シクラーゼのレドックス/ヘム状態を血管反応性維持の薬理標的として特定した点で重要です。
臨床的意義: 心臓手術では日常的な過酸素より常酸素への滴定を優先すべきであり、過酸素誘発性機能障害を克服するためにsGC標的薬の臨床試験が検討されるべきです。
主要な発見
- 200例の無作為化で、過酸素はFMDを変化させなかったが、生体外での内皮非依存性拡張を障害。
- 障害は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)のヘム酸化と整合的に観察された。
- FMD・PAT・ワイヤーマイオグラフィー・血中バイオマーカーの多面的評価で機序的証拠が収束。
3. 大手術後の疼痛管理におけるガバペンチン:プラセボ対照二重盲検ランダム化臨床試験(GAP試験)
主要心臓・胸部・腹部手術を対象とする多施設二重盲検RCT(n=1,196)で、周術期ガバペンチン(術前600 mg、術後300 mg×2回/日×2日)は、在院日数や重篤有害事象、臨床的鎮痛効果をプラセボと比べて改善しませんでした。
重要性: 広く用いられる補助薬を評価した高品質な陰性多施設RCTであり、大手術でのガバペンチン常用の中止を支持し、効果の高い鎮痛戦略へのリソース再配分を促すから重要です。
臨床的意義: 大手術に対するマルチモーダル鎮痛へのガバペンチンのルーチン追加は再考すべきで、NSAIDs+デキサメタゾンや区域麻酔など実証された非オピオイド併用を優先し、多剤使用を抑制すべきです。
主要な発見
- 在院日数に差なし:ガバペンチン中央値5.94日、プラセボ6.15日(HR 1.07;95%CI 0.95–1.20;P=0.26)。
- 重篤有害事象は同等(ガバペンチン31.7%対プラセボ32.6%)。
- 心臓・胸部・腹部の各サブグループで一貫して有効性を示さず。