麻酔科学研究週次分析
今週は周術期の神経免疫学、区域麻酔の選択、個別化換気を再定義する機序・臨床研究が注目されました。前臨床研究は脊髄アストロサイトのα2A受容体シグナル(デクスメデトミジン)を敗血症性心障害の保護因子として示しました。高品質RCTは乳房大手術で胸椎傍脊椎ブロックが脊柱起立筋平面ブロックより有利であることを示し、食道内圧やR/Iを用いた個別化換気や術中呼吸管理のエビデンスも前進しました。
概要
今週は周術期の神経免疫学、区域麻酔の選択、個別化換気を再定義する機序・臨床研究が注目されました。前臨床研究は脊髄アストロサイトのα2A受容体シグナル(デクスメデトミジン)を敗血症性心障害の保護因子として示しました。高品質RCTは乳房大手術で胸椎傍脊椎ブロックが脊柱起立筋平面ブロックより有利であることを示し、食道内圧やR/Iを用いた個別化換気や術中呼吸管理のエビデンスも前進しました。
選定論文
1. 脊髄アストロサイトα2Aアドレナリン受容体の活性化はGABA作動性ニューロンのネクロプトーシス抑制を介して敗血症性心障害を防護する
CLP敗血症モデルで脊髄GABA作動性ニューロンのネクロプトーシスが心機能障害を駆動し、ネクロプトーシス阻害は神経と心機能を保護しました。脊髄α2A受容体を介したデクスメデトミジンはアストロサイトの炎症シグナルを抑制して神経障害と敗血症性心筋症を予防し、薬理学的介入可能な脊髄神経免疫機序を示しました。
重要性: 敗血症と心機能障害を結ぶ脊髄の神経免疫経路を特定し、既存の鎮静薬デクスメデトミジンを調節因子として位置づけたため、敗血症の臓器障害予防に高い翻訳可能性を持ちます。
臨床的意義: 敗血症性心筋症軽減を目指したデクスメデトミジンの投与スケジュール(タイミング・用量・投与法)を臨床的に評価する根拠を与え、患者選別のためのバイオマーカー探索を促します。
主要な発見
- CLP敗血症で脊髄GABA作動性ニューロンにRIPK1/RIPK3/MLKL上昇を伴うネクロプトーシスが生じ、心機能が低下した。
- ネクロプトーシス阻害剤(ネクロスタチン-1)は脊髄ニューロンを保護し心機能障害を逆転させた。
- デクスメデトミジンは脊髄α2A受容体を活性化してアストロサイトのC3/IL-6/TNF-αを抑え、神経障害と心筋症を予防した。
2. 大規模がん乳房手術における脊柱起立筋平面ブロックと胸椎傍脊椎神経ブロックの比較:多施設ランダム化比較試験
多施設前向き二重盲検RCT(n=292)で、乳房大手術においてESPBはPVBに対する非劣性を満たさず(術後2時間以内のモルヒネ救済率75.2% vs 50.3%)、特に離床時疼痛が高く皮節カバーが不安定でした。モルヒネ総消費量と満足度は類似、重大合併症はなしでした。
重要性: 高品質RCTで乳房手術における区域麻酔選択に直接影響を与え、ESPBを第一選択とする常例に疑問を投げかけます。
臨床的意義: 可能であれば胸椎傍脊椎ブロックを第一選択とし、PVBが不適または実施不能な場合に限定してESPBを検討し、早期疼痛増加や皮節不完全のリスクを説明するべきです。
主要な発見
- 術後2時間以内のモルヒネ救済はESPBで高率(75.2% vs 50.3%)で非劣性不成立。
- ESPBは離床時疼痛が高く皮節カバー不全が多かった(55.9% vs 20.4%)。
- 重大合併症はなく、モルヒネ消費量・満足度は両群で類似。
3. マウスにおけるプロポフォール麻酔中の意識遷移を調節する乳頭上核グルタミン酸作動性ニューロンの役割
ファイバーフォトメトリー、化学遺伝学、光遺伝学を用いたマウス研究で、乳頭上核(SuM)グルタミン作動性ニューロンはプロポフォールによる意識消失前に活動が低下し回復時に上昇することを示しました。双方向操作で導入・覚醒時間が変化し、SuMまたはSuM→内側中隔の刺激で維持麻酔中にも覚醒が誘導され、回路レベルの覚醒ノードを特定しました。
重要性: 麻酔誘発性の意識消失を反転し得るSuM→内側中隔の覚醒回路を特定し、覚醒制御と麻酔管理の機序的標的を提供しました。
臨床的意義: 前臨床エビデンスは覚醒促進や遅延覚醒対策の神経調節戦略を示唆し、SuM関与のバイオマーカー同定や標的刺激の大型モデル・ヒトでの検証を促します。
主要な発見
- SuMグルタミン酸作動性ニューロンは意識消失前に活動が低下し、回復時に上昇した。
- 化学遺伝学的除去は導入を短縮し回復を延長し、活性化は逆効果を示した。
- SuMまたはSuM→内側中隔の光刺激は維持麻酔中にも覚醒と皮質賦活を誘発した。