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麻酔科学研究月次分析

5件の論文

10月の麻酔領域研究は、実装可能な周術期介入を検証するランダム化試験と、将来の鎮痛開発を方向付けるトランスレーショナル研究の双方が進展しました。大規模単一細胞ゲノミクスにより、慢性疼痛リスクが大脳皮質のグルタミン酸作動性ニューロンおよびヒトDRGノシセプター(hPEP.TRPV1/A1.2)に局在化され、精密鎮痛標的探索の道筋が提示されました。臨床面では、小児の覚醒時せん妄を低減する静注エスケタミンや、乳幼児の橈骨動脈閉塞を予防する皮下ニトログリセリンなど、即時導入可能な周術期戦略が支持されました。一方、在宅血圧に基づく個別化術中MAP目標は大規模RCTで有益性が示されず、標準的目標維持を支持する方向性が強まりました。さらに、第3相試験で全草カンナビス抽出物が中等度ながら有意な疼痛軽減を示し、多面的鎮痛戦略の拡充が示唆されました。

概要

10月の麻酔領域研究は、実装可能な周術期介入を検証するランダム化試験と、将来の鎮痛開発を方向付けるトランスレーショナル研究の双方が進展しました。大規模単一細胞ゲノミクスにより、慢性疼痛リスクが大脳皮質のグルタミン酸作動性ニューロンおよびヒトDRGノシセプター(hPEP.TRPV1/A1.2)に局在化され、精密鎮痛標的探索の道筋が提示されました。臨床面では、小児の覚醒時せん妄を低減する静注エスケタミンや、乳幼児の橈骨動脈閉塞を予防する皮下ニトログリセリンなど、即時導入可能な周術期戦略が支持されました。一方、在宅血圧に基づく個別化術中MAP目標は大規模RCTで有益性が示されず、標準的目標維持を支持する方向性が強まりました。さらに、第3相試験で全草カンナビス抽出物が中等度ながら有意な疼痛軽減を示し、多面的鎮痛戦略の拡充が示唆されました。

選定論文

1. 慢性疼痛における脳および後根神経節の細胞型特異的遺伝学的アーキテクチャ

84The Journal of clinical investigation · 2025PMID: 41055971

大規模GWAS(約124万人)とヒト単一細胞トランスクリプトーム/クロマチン情報を統合し、慢性疼痛の遺伝学的寄与を前頭前野・海馬・扁桃体のグルタミン酸作動性ニューロンおよび特定のhDRGノシセプター亜群(hPEP.TRPV1/A1.2)に局在化。標的鎮痛薬開発に関わる候補機序として、キナーゼシグナル、GABA作動性シナプス、軸索ガイダンス経路が示されました。

重要性: 慢性疼痛のGWASシグナルをCNS・PNSの特定ニューロン集団に結び付ける大規模細胞型マップを初めて提示し、精密標的の発見とトランスレーショナル研究の優先順位付けを可能にしました。

臨床的意義: 大脳皮質のグルタミン酸回路およびhDRG TRPV1/A1.2ノシセプターを焦点とした標的鎮痛戦略やバイオマーカー選択の指針となり、直ちに臨床実装するというよりは研究の優先順位付けを支援します。

主要な発見

  • 疼痛関連変異は前頭前野・海馬CA1–3・扁桃体のグルタミン酸作動性ニューロンに濃縮。
  • ヒトDRGのhPEP.TRPV1/A1.2ノシセプター亜群に疼痛リスク変異が強く濃縮。
  • 遺伝子レベルでキナーゼ活性、GABA作動性シナプス、軸索ガイダンス、神経突起発達が示唆。

2. 慢性腰痛に対するカンナビス・サティバDKJ127全草抽出物:第3相無作為化プラセボ対照試験

87Nature Medicine · 2025PMID: 41023483

多施設第3相無作為化プラセボ対照試験(n=820)で、全草カンナビス抽出物(VER‑01)は12週で有意だが中等度の疼痛軽減を示し、事前定義の神経障害性疼痛サブグループでも症状が改善しました。有害事象は増えたが主に軽〜中等度で、依存や離脱の所見はありませんでした。

重要性: 標準化全草カンナビス抽出物が慢性腰痛および神経障害性症状を軽減し得ることを示す初の大規模第3相エビデンスであり、オピオイドやNSAIDsに代わる鎮痛選択肢の拡充に資します。

臨床的意義: 効果量は中等度で軽〜中等度の有害事象が増える点を説明した上で、多面的疼痛管理の補助としてVER‑01の導入を検討できます。忍容性と長期安全性のモニタリングが重要です。

主要な発見

  • 主要評価達成:VER‑01でNRSが−1.9低下、プラセボとの差は−0.6(95%CI −0.9〜−0.3、P<0.001)。
  • 神経障害性疼痛サブグループでNPSIが有意に改善(プラセボ差 −7.3、P=0.017)。
  • 有害事象はVER‑01で多い(83.3% vs 67.3%)が主に軽〜中等度、依存や離脱の所見なし。

3. 小児アデノトンシル切除後の覚醒時せん妄および否定的行動変化に対する静脈内エスケタミンの予防効果:無作為化対照試験

84Anaesthesia · 2025PMID: 41039865

単施設二重盲検RCT(n=228)で、3–7歳のアデノトンシル切除において術中低用量エスケタミン(0.2 mg/kg静注)は覚醒時せん妄(17% vs 43%)と術後7日の否定的行動変化(42% vs 61%)を低下させ、有害事象は増加させませんでした。30日まで効果が持続し鎮痛と保護者満足度が改善しました。

重要性: 簡便な術中介入で小児の覚醒時せん妄と早期の不適応行動を低減し、安全性上の懸念が少ないことを示した実践的ランダム化エビデンスです。

臨床的意義: 小児アデノトンシル切除では、低用量エスケタミン静注のプロトコール化を検討し、覚醒時せん妄と早期行動障害の低減を図ってください。標準的モニタリングと施設適用が前提です。

主要な発見

  • 覚醒時せん妄:エスケタミン17% vs 生理食塩水43%、RR 0.40、p<0.001。
  • 術後7日の否定的行動変化:42% vs 61%、RR 0.70、p=0.009;効果は30日まで持続。
  • 有害事象の増加なし、鎮痛と保護者満足度は改善。

4. 小児患者における橈骨動脈閉塞予防のための皮下ニトログリセリン:ランダム化臨床試験

82.5JAMA Pediatrics · 2025PMID: 41051743

全身麻酔下で橈骨動脈カテーテルを受ける3歳未満児の二重盲検RCT(per‑protocol n=132)で、穿刺前と抜去前の皮下ニトログリセリン(5 μg/kg)は、抜去後の橈骨動脈閉塞を73.8%から25.4%に低下させ(絶対リスク減少約48.5%)、低血圧や局所有害事象は認められず、血流指標も改善しました。

重要性: 一般的な小児の血管合併症に対し、低コストかつ簡便で大きな絶対利益をもたらす予防策を実証し、安全性も良好であることを示しました。

臨床的意義: 乳幼児の超音波ガイド下橈骨動脈カニュレーション前および抜去前に皮下ニトログリセリン(5 μg/kg)の使用を検討し、標準的な循環動態モニタリング下でRAO予防を図ってください。

主要な発見

  • 抜去後RAO:ニトログリセリン群25.4% vs プラセボ群73.8%、OR 0.12、絶対リスク減少約48.5%。
  • 抜去後のピーク血流速度と灌流指数が改善、低血圧や局所有害事象はなし。
  • プロトコール逸脱により、200例中132例がper‑protocol解析に含まれた。

5. 大規模腹部手術患者における個別化周術期血圧管理:IMPROVE-multi ランダム化臨床試験

81JAMA · 2025PMID: 41076588

15施設の高リスク大規模腹部手術1142例において、術前夜間在宅血圧に基づく個別化MAP目標は、MAP ≥65 mmHgを標準とする管理に比して7日複合転帰(AKI、心筋障害、非致死性心停止、死亡)を減少させませんでした(RR 1.10、95%CI 0.93–1.30)。副次評価にも差はなく、在宅血圧由来の個別化術中BP目標の妥当性に疑義が示されました。

重要性: 在宅血圧由来の個別化MAP目標を直接検証した大規模多施設RCTで有益性が示されず、日常診療への導入に対する強い抑制的根拠を提供します。

臨床的意義: 大規模腹部手術では、在宅血圧に基づく個別化目標よりも、MAP ≥65 mmHgなどの標準目標を維持すべきです。今後は灌流・自己調節指標に基づく戦略の検証へ注力してください。

主要な発見

  • 個別化MAPは主要複合エンドポイントを改善せず(RR 1.10、95%CI 0.93–1.30、P=.31)。
  • 感染や90日主要有害事象を含む22の副次評価に差はなし。
  • 介入は在宅夜間平均MAPに基づき術中目標を設定、対照はMAP ≥65 mmHgを目標とした。